●アイドルビジネスの販売戦略
「ストーリー」というのは販売戦略上非常に重要なものである。
もちろん100円、200円のものに「ストーリー」は必要ないが、金額が高くなればなるほどその重要性は増す。
アイドルという商品も1つ1つの物品の単価は決して高くないが、顧客の生涯価値みたいなところで言えば、年3回のシングルを20枚ずつ3年間買えば18万円になるし、これが各回50枚となれば45万円となるし、これらにライブのチケットや物販で購入するものなどを加えればもっと高いものとなるだろう。
冷静になってしまうともの凄い金額の購買を行っていることになる訳だが、その是非等はこのさい置いておき、販売の観点からで言えば「新規顧客を掴んで離さない」ようにすることが不可欠となるということについて論じたい。
もしせっかく掴んだ新規顧客をすぐリリースして(手放して)しまうようなことがあれば、その顧客の生涯価値は数万円とか、下手をすると数千円で終わってしまうことになる。
逆に言えば、最初は少額だったとしても、あるタイミングから熱が入れば本格的な消費が発生し、結果的に生涯価値が数十万円以上になることもざらにある。
そもそもアイドルビジネス自体がそのような構造になっている現状はあるし、分母が増えて来ればまた構造も変わってくる可能性もあるが、それはそれとして、どのような状況であっても新規顧客をきちんと「惹き付ける」必要がある。
また、惹き付けた顧客を他に行かないように「惹き付け続ける」必要もある。
そして、そのために必要不可欠だと思われるのが「ストーリー」なのだ。
●「ストーリー」が何故重要か
つりビットの正式なデビュー曲である『真夏の天体観測』。
とりわけ古くからつりビットを応援している人にとっては、この曲への思い入れは大きく、深いものがあるだろう。
AKBグループには「リクエストアワーセットリストベスト○○」というファンによる楽曲投票イベントがあるが、もし同じことをつりビットでやった場合、1位は間違いなくその『真夏の天体観測』になるだろう。
一方で私が投票するなら『バニラな空』により多くの票を投じる。
それは私がつりビットを知ったのが、牛丼屋で流れている有線放送でかかっていた『バニラな空』だったからである。
もしこの曲がそのタイミングでかからなければ、私は恐らく今もつりビットのことは知らなかったし、再びアイドルの世界へ足を踏み入れることもなかっただろう。
では、この両者の違いは何か?
単純な楽曲の「好み」だろうか?
いや、すでにお解りだろうと思うが、両者の違いは「ストーリー」である。
古くからのファンはデビュー当時からつりビットメンバーと『真夏の天体観測』とともに多くのイベントを過ごして来ている。
恐らくライブイベントで最も多く歌われて来た曲が『真夏の天体観測』ということになるであろう。
そして、この曲は彼女たちにとっての大切なデビュー曲である。
なので、『真夏の天体観測』そのものが「ストーリー」なのである。
一方で私の「ストーリー」は上記の通り、私自身のデビュー曲(知るきっかけ)が『バニラな空』だったので、そちらの思い入れが圧倒的に強い。
もっと言えば、『真夏の天体観測』っぽい曲とメンバーに評されたためにそのようなイメージの強い新曲『ウロコ雲とオリオン座』について、評価が二分しているように感じる。
人によっては『真夏の天体観測』の二番煎じという評価もあれば、私自身は今までにないタイプの神曲と評価している。
もちろん好みもあるとは思うが、この評価の違いは純粋にその人の中に『真夏の天体観測』の「ストーリー」があるかないかだけではないだろうか?
私にはその「ストーリー」がないか薄いから、この曲を一切二番煎じだと感じることなく、今までにないタイプの神曲と思って聴くことができているのだと思う。
●ストーリーをどう生かすか
私がつりビットについて感じていることは、メンバーや運営、そしてファンが、基本的に「今」のことしか語っていないことである。
「今」というのは点でしかない。
しかし、「昔」があって、「今」があって、さらに「未来」があって、それらが線でつながると素晴らしい「ストーリー」になる。
その「ストーリー」が人を惹き付けるのだ。
たとえば...
「デビューした当時の私たちのダンスは酷いものでした」
「でも今ようやく少しずつ踊れるようになって来ました」
「今後は客席の皆さんをもっと楽しませるように頑張って、目標である日本武道館を目指したいと思います」
「今日は沢山の皆様に集まっていただいて、ありがとうございます」
「私たちのデビュー当時は本当にお客様が全然いなくて、今の状況は本当に信じられません」
「まだまだ武道館の8000人までは遠いかも知れませんが、今日お集まりの皆さんと一緒にその夢を目指したいと思います」
つりビットが「昔」どうで(場合によってはどのくらい酷くて)、「今」がどうで(どのくらい成長して)、未来がどうか(何を目指しているのか)がわかれば、少なくとも「今」のことしか語らないよりはプロジェクトやアイドルにより親近感が湧くのではないだろうか?
アイドルを応援するのに必要な要素には、そのアイドルが好みかどうか、楽曲が好きになれるか、現場の雰囲気や運営がどうかという要素はもちろんあると思うが、「それだったら自分も応援して一緒に目標を叶えようじゃないか」という動機、あるいはモチベーションが大事ではないだろうか。
だとしたら、成長した「今」と、成長して行く「未来」を、きちんと自分たちの言葉で「ストーリー」として伝えることが大事だと思うのだ。
一方でファンの側である私は、昔のつりビットのことは在宅だったのでそんなに良く知らないが、上述のような運命的な出会いの「ストーリー」はある。
そして、メンバーや運営がどう思っているかわからないけれど、私なりに「今から2年後に武道館」という目標を勝手に立てて、その未来にベット(=賭け)している。
運命的な出会いと、相応の在宅期間という歴史があったからこそつりビットのことしか見ていないし、武道館という大きな目標があるからこそ「できたらそこに行かせたい」という思いで応援しているのだ。
私の「ストーリー」に共感してもらえる方は少ないかも知れないが、このような「ストーリー」が今のファンの人数分集まったらどういうことになるだろうか?
「前は●●というグループを応援していて、ある日知り合いに連れて行かれたつりビットの現場が居心地良くて、今は主現場になっています」という「ストーリー」があったら、●●というグループのファンの誰かがピンと来るかも知れない。
「私はアイドルなんて何も興味がなかったのですが、たまたま地元のCDショップでやっていた販売会で見たつりビットが本当に可愛くて、気付いたら釣り上げられてファンになっていました」という「ストーリー」があれば、それに何かを感じる人がいるかも知れない。
女性だったり、子供だったり、年配者だったり、自営業者だったり、サラリーマンだったり、あらゆるバックグラウンドの人がつりビットとの「ストーリー」を等身大で語るだけで、必ず共感する人が出て来るはずである。
たとえば、今リリイベに集まる約100人の「ストーリー」が、たった10人ずつの共感を呼べばファンは1000人になる。
その1000人が同じように「ストーリー」を語って10人ずつの共感を得られれば、ファンは10000人になる。
そうしたらつりビットは武道館に行けてしまう計算だ。
もちろん現実はそうそう計算通りには行かないが、「ストーリー」が人を惹き付けて離さない力を持っているのだとすれば、それを活用しない手はないだろう。
プロジェクトやメンバーの共感できる「ストーリー」があれば、それがリツイートのように広がって行く。
その「ストーリー」とファン自身の「ストーリー」が組み合わされば、それがさらに大きな影響力を持ってしまうこともあるかも知れない。
決してそれが感動する「ストーリー」である必要もなければ、無理に脚色して作る必要もない。
等身大の「ストーリー」をみんなが普通に発信すれば良いだけだ。
つりビットのことを巨大な資本を投下せずに広めていくとしたら、メンバー、運営、ファンがきちんとした「ストーリー」をもって情報を発信して行くことが、現時点で考え得る誰でもが簡単にできる最短の方法ではないだろうか?と私は思っている。
なので、これをお読みになったつりビットファンの皆様は、小さなことで良いので、つりビットに関するご自身の「ストーリー」を何度でも繰り返し発信していただければと思う。
そしてもちろんつりビットメンバーや運営も、未来につながる「ストーリー」の発信を沢山して欲しいと願っている。